2026.10.26

LUGGAGE LABELが見つめる、日本の手仕事とものづくり

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10月3日、HOTEL FORK & KNIFEのエントランスギャラリーとショップ「ref.Miyajima」にて、LUGGAGE LABELによる特別展示販売「安芸の宮島、宿と鞄」がスタートしました。

今回紹介するのは、日本に古くから伝わる素材や技術を、現代の鞄づくりへと取り入れた3つのシリーズ。柿渋染めの「OLDNEW」、藍染めの「TRUE BLUE」、そして竹を用いた「FILAMENT」です。

展示初日には、LUGGAGE LABELのブランドディレクター・松原健一郎氏と、ref.ディレクター・中本健吾によるトークセッションを開催。
吉田カバンが長年大切にしてきたものづくりの姿勢から、素材にまつわる歴史や職人の仕事、そして伝統を未来へつないでいくために必要なことまで、幅広い話題が交わされました。


古いものを見つめ直し、新しい価値を生み出す

吉田カバンに入社して29年。納品や店頭での販売、コラボレーション企画など、さまざまな仕事を経験してきた松原氏。現在はLUGGAGE LABELのブランドディレクターとして、ブランドの方向性を大きく見直しながら、ものづくりに取り組んでいます。

1984年に誕生したLUGGAGE LABELは、かつてミリタリーの要素を取り入れた、素材やディテールにこだわるブランドとして知られていました。その後、PORTERが注目を集める一方で、LUGGAGE LABELには新たな方向性が必要だと感じるようになったといいます。

そこで松原氏が目を向けたのが、日本各地に残る手仕事や、昔から受け継がれてきた文化でした。

「たとえ大きな売上につながらなくても、ほかではやっていないこと。日本各地の職人さんや、昔から伝わる文化にフォーカスして、それをものづくりに生かせないか。そこが出発点でした」

年に2回、新しいシーズンの商品をつくる中でも、完全にゼロから生まれるものは、そう多くない。これまで見たり、聞いたり、読んだりしてきたことが、知らず知らずのうちにものづくりに影響を与えていると松原氏は話します。

大切にしたいのは、過去を懐かしむことではなく、これまで受け継がれてきたものの中から新たな価値を見つけること。古いものから学び、現代の暮らしに合うかたちへとつなぎ直す。今回の3つのシリーズにも、そんな「温故知新」の考え方が通底しています。

中本も、人の手が入ったものづくりの魅力について、次のように語ります。

「僕が大事にしているものは、人の手を省かずにつくられてきたもの。建築でも、車でも、家具でも、洋服でも、自分の心に訴えかけてくるものには、そうした背景があると感じます」

大量生産によって多くの人に届けるものづくりがある一方で、手仕事だからこそ生まれる表情や、つくり手の経験が反映された製品もある。今回の展示は、そうしたものづくりの可能性を改めて知る機会でもあります。




OLDNEW — 柿渋染めが生み出す、一つひとつ異なる表情

最初に紹介するのは、柿渋染めのシリーズ「OLDNEW」。

柿渋は、熟す前の青い柿を搾り、発酵させてつくる染料です。古くから日本では、染色のほか、防水・防腐の性質を生かして衣類や生活道具、建材など、さまざまな用途に使われてきました。

「OLDNEW」は、そうした伝統的な染色技術を現代の鞄づくりに取り入れたシリーズです。中綿の入った真っ白なバッグを、染色職人が一つひとつ柿渋に浸し、天日干しする。その工程を繰り返すことで、独特の深みを持った色合いが生まれます。

今回のトークセッションでは、柿渋染めを手がける職人の仕事についても話が及びました。

染色の工程では、天候や日照時間が仕上がりに大きく影響します。雨が降れば作業を進められない日もあり、特に日照時間の短い冬場は、夏とは同じように染めることができません。職人はビニールハウスの中でバッグを一本ずつ染め、干し、再び染めるという作業を繰り返しています。

「今回の柿渋染めの商品も、一人の職人さんが担当しています。この商品をつくって、初めて腱鞘炎になったと言っていました。それほど大きな労力がかかっています」と松原氏。

染める回数や乾燥の過程、太陽の光の当たり方によって、色や模様には違いが生まれます。同じ製品であっても、一つとして同じ表情にはならない。それは、自然の力と職人の手仕事が重なり合うことで生まれる魅力です。

松原氏が柿渋に改めて着目したのは、パンデミックの時期。各地の産地を訪れ、文献を調べる中で、柿渋に関する研究を知ったこともきっかけの一つだったといいます。

柿渋は、古くから人々の暮らしに根付いてきた素材です。まだ熟していない柿を活用し、発酵させて染料にする。その知恵を、現代の鞄という道具に生かすことは、昔からあるものを今の暮らしの中で捉え直す試みでもあります。

「OLDNEW」という名前には、古くから受け継がれてきた技術を見つめ直し、新しい価値を見出すという姿勢が表れています。




TRUE BLUE — 自然の素材と、受け継がれてきた知恵

続いて紹介するのは、藍染めのシリーズ「TRUE BLUE」です。

「土に還る」というコンセプトのもと、天然藍をはじめ、麻糸、植物タンニンで鞣した牛革、エゾシカの角など、自然由来の素材を組み合わせています。

藍染めは、長い歴史を持つ染色技術の一つ。天然藍ならではの色合いを生み出すには、原料や染料への深い理解と、時間をかけて培われた技術が必要です。

松原氏がこのシリーズで考えたのは、製品を長く使い続けることに加えて、使い終わったあとのことまで見据えたものづくりでした。

吉田カバンでは、商品を販売して終わりにするのではなく、修理などのアフターケアを通じて、長く使い続けられる関係を大切にしています。その一方で、ものを大切にする方法は、修理して使い続けることだけではないのではないか。そんな問いから、「土に還る」という考え方へとつながっていきました。

シリーズの特徴の一つが、留め具にエゾシカの角を用いていることです。エゾシカの角は毎年自然に落ちるもの。その素材を加工してトグルとして使い、植物タンニンで鞣した革や天然藍と組み合わせています。

素材の選択から製品の構造まで、自然とのつながりを意識した設計が取り入れられています。

もちろん、自然由来の素材を使えば、それだけですべてが完結するわけではありません。それぞれの素材を加工し、製品として成立させるためには、つくり手の知識や技術が必要です。「TRUE BLUE」は、自然の恵みだけでなく、それを暮らしの中で生かしてきた人々の知恵も伝えるシリーズです。

古くからの技術を学びながら、今の時代に合ったかたちを探る。そこには、伝統を未来へとつなぐための新たな可能性が広がっています。




FILAMENT — 竹から広がる、素材の可能性

3つ目は、竹を用いたシリーズ「FILAMENT」です。

日本では古くから、竹がさまざまな道具や生活用品に使われてきました。適度な硬さとしなやかさを兼ね備え、成長が速いことも特徴です。

シリーズ名の由来は、発明家トーマス・エジソンが白熱電球のフィラメントに日本の竹を用いたという逸話。京都・石清水八幡宮の竹を使い、長時間の点灯を実現したと伝えられています。世界を照らす技術の発展にも、日本の素材と知恵が関わっていたのです。

「FILAMENT」は、そんな竹の可能性に改めて着目し、現代の鞄づくりに取り入れたシリーズ。日本的で温かみのある竹と、綿花由来の帆布を組み合わせることで、素材の持つ素朴さと、凛とした佇まいを引き出しています。

トークセッションでは、竹が持つ生命力や、環境との関わりについても話が交わされました。

竹は成長が速く、適切に管理しながら活用することが求められる植物でもあります。中本は、竹を使ったものづくりが広がることで、竹林の管理や山の環境を考えるきっかけにもなるのではないかと話します。

身近にある素材も、視点を変えることで新たな可能性が見えてくる。昔から使われてきたものを現代の製品に取り入れることは、伝統をただ残すのではなく、これからの暮らしの中で生かしていくための一つの方法です。




技術を残すために、仕事を残す

3つのシリーズに共通するのは、素材の魅力だけでなく、それを生かすための技術や、実際に手を動かす職人の存在が欠かせないということです。

トークセッションでは、職人の高齢化や後継者不足、伝統的なものづくりを継続していく難しさについても、率直な話が交わされました。

松原氏は、産地を訪れる中で、技術を受け継ぐ人がいないために、廃業を考えざるを得ない職人と出会ってきたといいます。今回の柿渋染めを担当する職人も、師匠を亡くしたことで、技術を続けていけるかどうかという状況に直面していました。

そうした技術を残すために、吉田カバンとしてできること。それは、職人に仕事を依頼し続けることだと松原氏は話します。

「たとえ売れる数が限られていても、僕たちがリスクを負って仕事をお願いし続ける。それが職人さんの収入になり、技術を残すことにもつながります」

職人の技術を次の世代へ引き継ぐためには、技法や知識を伝えるだけでは十分ではありません。仕事として成り立つこと、技術に見合った対価が支払われること、そして若い世代がその仕事に魅力を感じられる環境があることも重要です。

中本も、販売する立場から、職人の仕事に見合う対価を支払うことの大切さを指摘します。

「職人さんが、これを仕事にしたいと思える環境をつくること。若い人が憧れるような仕事にすることが大事なんです」

また、松原氏は、産地の中には若い人が働き続けられる環境づくりに力を入れている企業もあると紹介しました。技術を教えることだけでなく、働く場所を整え、仕事を続けられる環境をつくる。そうした取り組みも、ものづくりを未来へつなぐために欠かせません。

長い時間をかけて培われた技術も、それを担う人がいなければ途絶えてしまいます。製品をつくり、販売し、その背景にある仕事を伝えていく。ものづくりを支えるためには、つくり手だけでなく、販売する側や使い手も含めた関わりが必要なのかもしれません。


商品の背景を伝えることも、販売の役割

今回の展示を企画した中本が、販売する立場から大切にしているのも、商品の背景にあるストーリーを伝えることです。

「僕たちは接客業をしています。商品にまつわるストーリーをお客様に伝えられることが、一番大切なんです。ストーリーがないのであれば、販売する意味はないと思っています」

素材はどこから来たのか。どんな技術で加工され、誰がどのように仕上げているのか。そうした背景を知ることで、製品の見え方は変わります。

中本は、今回のようなものづくりを知る人が増えることが、次の担い手を生み出すきっかけにもなると考えています。商品を手に取った人が、その仕事に興味を持ち、「自分もこんなものをつくりたい」と思うかもしれない。そうした小さなきっかけをつくることも、販売の役割の一つです。

松原氏も、中本について「自分が好きなものでなければ、おそらく取り扱わないでしょうし、その商品について誰よりも語れる人」と話します。

つくり手が素材や技術と向き合い、売り手がその背景を伝え、使い手が価値を知る。ものづくりを続けていくためには、こうしたつながりも大切になってきます。


宿と鞄が出会う場所で

今回の展示が行われているHOTEL FORK & KNIFEは、食や建築、アート、文化などを通じて、広島や瀬戸内の魅力に触れる場でもあります。

中本は、ホテルという場所について、普段の店舗では出会えないお客様に商品やものづくりの背景を伝えられる可能性があると話します。

「ホテルは、ものづくりを伝える場所として、とてもいい場所なのかもしれません」

旅先でふと目にした鞄をきっかけに、素材や技術に興味を持つ。そこから、つくり手の仕事や日本のものづくりの背景を知る。ホテルという日常から少し離れた場所だからこそ、そうした出会いが生まれることもあります。

柿渋、藍、竹。日本の暮らしの中で長く使われてきた素材は、過去のものとして閉じられているわけではありません。受け継がれてきた技術を今の暮らしに生かし、職人の仕事を支え、その背景を次の世代へ伝えていく。

鞄を通して出会う、日本のものづくりの奥行き。受け継がれてきた技術や、ものをつくり続けることの意味に思いを巡らせながら、ぜひ会場でそれぞれの鞄に触れてみてください。




「安芸の宮島、宿と鞄」
会場:HOTEL FORK & KNIFE エントランスギャラリー / ref.Miyajima
期間:10月3日〜12月27日
  OLDNEW(柿渋):10月3日〜10月29日
  TRUE BLUE(藍染):10月31日〜11月25日
  FILAMENT(竹):11月27日〜12月27日